グリーンヒルズ1号館(環境エネルギーイノベーション棟:EEI)が大岡山に完成

塚本由晴(昭和63年卒/本学准教授)

 環境エネルギーに関する研究者が専攻、学科を超えて集まり、研究・実験を行うグリーンヒルズ1号館(環境エネルギーイノベーション棟)が、2012年春に完成しました。地下2階、地上7階、高さ34m、延床面積9554u、主構造は鉄骨造です。本学建築学専攻の塚本由晴准教授(意匠)、竹内徹教授(構造)、化学専攻の伊原学准教授(エネルギー)がデザインアーキテクトとなり、施設運営部・日本設計と協力して設計監理にあたりました。

  この建物は電力消費量の大きい実験棟からのCO排出量を従来の施設より60%削減し、棟内で消費する電力をほぼ自給自足する設計になっています。外周に設置された650kwもの大容量太陽光電池パネルがこの研究棟の象徴的存在になっていますが、気象条件に左右される太陽光発電を主力電源にして、低炭素化と電力の自給自足を両立するには、高効率機器の導入と適切なシステム設計などの省エネルギー化が必要でした。また発電量の変動を補うベース電源として、化石エネルギーを使った燃料電池を導入し、外部電力とも連携することで、エネルギー源の分散を図っています。

  敷地は元自動車部の教習場で、東急線に接するくさび形をしていますが、南側が線路で日当りが良いため、壁面も含めて太陽光発電を設置できます。ここに太陽光電池パネルを最大限設置するために、パネルの設置面を建物本体から離し、建物より大きくひろがることを可能にしました。建物に寄りかかるように少し傾いた南面と、水平な屋根面および垂直な西面の三面は、一体となって建物をすっぽり包み込むソーラーエンヴェロップと名付けられました。ソーラーエンヴェロップと建物の間に生じた高さ30m長さ100mの長大な半外部空間には、大聖堂を思わせる迫力があります。メンテナンスが容易にできるように、鉄骨のフレームに既製品の太陽電池パネルとキャットウォークを設置し、パネルは研究室の階では水平のルーバー状になり、採光と通風を確保しています。ソーラーエンヴェロップと建物の間が風の通り道(ソーラーコリドー)となって太陽光電池パネルの温度上昇を防ぎ、実験用チャンバーから出るダクトを隠すのに役立っています。受光量を増やすために傾けられた姿が“稲掛け”を連想させるなど、太陽の恵みを受けるという点で、太陽光電池パネルには農業との共通性が多いと感じました。外殻架構には地震のエネルギーを吸収し、柱梁を損傷より守る座屈拘束部レースを螺旋状に巡らせており、震度7クラスの地震に対しても、機能を維持できる構造になっています。

 低炭素化と電力のピークカットに貢献する電力の自給自足を追求していくと、将来のエネルギーシステム・都市のあり方が見えてきます。その先駆けとして、大岡山、すずかけ台、三田の各キャンパス内に、各種の高効率分散発電機、蓄電池を増やし、本研究棟が学内の詳細な電力需要を把握、監視し制御するキャンパスマイクログリッドを構築する計画があります。本研究棟が、これからのエネルギーのあり方、都市における建築のあり方の新しい方向性の一つを提示し、エネルギーと建築の密接な連携を加速させるきっかけになることを期待しています。


南面

西面 ソーラーコリドー