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谷口汎邦先生のご逝去を悼む

宮本文人(昭和53 年卒/東京工業大学名誉教授)

 本学名誉教授谷口汎邦先生が、2022 年 12 月 19 日にご逝去されました。享年 91 歳でした。先生は 1931 年 3 月 2 日に生まれ、1957年に東京工業大学建築学科を卒業されました。当時は、佐野利器先生の門下生である、父親の谷口忠先生と二見秀雄先生が本学教授、同門で親戚の武藤清先生が東京大学教授でした。そのため、大学院では建築構造分野に進学されました。しかし、建築計画と設計への関心が強く、3 か月後に清家清研究室の助手になりました。

 義理の伯父である佐野利器先生からの助言もあり、東京大学建築計画分野の吉武泰水先生にお世話になり、研究における幅の広さに触発されたと伺いました。1965 年に「近隣交流よりみた住宅団地の計画単位と施設の配置・規模に関する研究」により博士の学位を取得され、1967 年に新設の社会工学科助教授に迎えられました。同学科の基盤固めに尽力された後、建築計画第三講座助教授として建築学科に戻られました。1982 年に新設された計画基礎講座の教授に昇任され、翌年、文教施設総合研究センター長に就任されました。先生の叔父と兄もそれぞれ機械工学、化学工学の分野で本学教授でしたので、まさに、東工大一家でした。1991 年に東京工業大学を定年退職され、同年に武蔵工業大学(現・東京都市大学)教授に着任し、2001 年に退職されました。業績をいくつか紹介しますと、1976 年に「地域教育関連施設の計画に関する研究」により日本建築学会賞(論文)を受賞されました。1983 年に竣工した長津田キャンパスの計画と設計では、10 年以上にわたり中心的役割を担いました。1980 年代初頭に文部省で学校等所管施設に関わる研究センター設置の話が持ち上がり、当該分野の研究者が在籍する本学に文教施設総合研究センターが新設されました。初代センター長として、OECD(経済協力開発機構)と学校施設に関する国際交流を始められ、後に、長年、国を代表して OECD に参画する道筋をつけました。受託研究も多く、1980 年代末に、東京都全私立高校の施設台帳の整備とともに、年度別に校舎老朽化に伴う建替え床面積を提示しました。これは、近年における私立高校の新校舎建設に繋がる貢献でした。

 研究活動の特色は、広範囲な分野にわたることです。吉武泰水先生から後の研究者では類を見ないものです。具体的には次の通りです。1)人間工学:浴槽、便所、階段の人体動作、座り行為。2)集合住宅:土地利用比率、道路構成、購買施設、就遊施設、住民と幼児の生活空間、近隣交流と近隣空間。3)都市住宅:建築・空地の変容、多摩田園都市の住宅地計画。4)学校施設:小中学校計画、RC 造校舎のコスト、学校と地域施設の複合化。5)大学施設:大学の校舎面積、大学の外部空間と計画課題。6)地域施設:施設利用圏、施設複合化、高齢者の利用。7)施設整備:都市別の医療施設整備標準、公共施設整備標準。8)環境心理:計画住宅地やキャンパスの外部空間構成と知覚。9)計画基礎:公共施設の計画過程分析。

 研究方法では、地道な調査を行う一方、大規模データを収集し、データベース化を計り、大型コンピュータを駆使して、近年のビッグデータの収集・分析に通じることを行っていました。既存の枠組みを超えて新しい考え方を取り入れ、時代の先端を行く数理・統計手法を用いていました。

 先生は、幅の広い多角的な視野を有し既存の枠組みを超え、時代の流れを感じ取り、長期的に将来を見通せる研究者でした。現在、学問は専門分野の細分化が進んでいますが、このような時代には、先生のような研究者が必要だと考えています。先生はいつも忙しい生活を送られていました。今は、深い感謝の気持ちとともに、安らかにお休み下さることを心より願っています。


先に掲載の追悼文にて、二見秀雄先生に関する記述に誤りがありましたことを深くお詫び申し上げるとともに、修正させて頂きます(2024年4月)。