70周年記念講堂の天井改修

金箱温春(昭和50年卒/本学特定教授)
元結正次郎(昭和57年修士/本学教授)

■改修の経緯
 70周年記念講堂は谷口吉郎氏によって設計された湾曲した木天井が印象的な建築であり、OBOGの皆様も入学式や卒業式で使われたことがあり馴染み深いと思われる。1955年に完成し現在でも学内行事に使われている(写真1、図1)。

写真1 講堂の内観 図1 講堂平面図

 文部科学省は東日本大震災における天井落下の被害を鑑み、学校施設の体育館・講堂の天井の安全性の確認を求め、安全でない天井は撤去するように指導してきた。本学の天井は2014年度の調査・検討の結果、耐震性は不十分であることが判明し対策が必要とされた。歴史的に価値のある建物であり、天井意匠や材料を保存しつつ耐震補強を行うことを前提に検討が行なわれ、本年3月に改修工事が完了した。

 プロジェクトの遂行にあたっては本学に所属する意匠、構造、音響、照明及び地震動の専門分野の教員(安田幸一教授、元結正次郎教授、金箱温春教授、清水寧教授、中村芳樹教授、山中浩明教授、川島範久助教)と施設運営部(施設総合企画課及び施設整備課)のメンバーから構成された耐震対策協議会が設けられ、耐震性の確保に加えて音響、照明も含めて総合的に改修計画の検討、施工時の監修が行われた。また、本プロジェクトは改修内容の独自性が評価され、文部科学省の「学校施設の天井等非構造部材の耐震対策先導的開発事業」に採択された。

■建築概要
 建物は地上3階、地下1階、延べ床面積1,301uの規模を持ち、全体は整形な平面形状である。構造は鉄筋コンクリート造の壁が多い構造であり、建物自体の耐震補強は既に行われていた。客席とステージが一体となった講堂は短手方向が19m、長手方向が32.4mの大きさであり、周囲にロビー、ギャラリーなどの諸室が配置されている。

■天井の構造
 講堂の屋根は短手方向にアール状のSRC造トラスが設けられ、ここから天井が吊り下げられている(図2,3)。客席部分とステージでは空間としては一体であるが、天井は分断されておりそれぞれ形態や構造方式が異なっている。

図2 天井長手方向断面図
図3 天井短手断面

 客席部の天井は、短手方向にユニット化された木板のくら型面が形成され、それらが舞台から客席後方まで一体的に連続した形態となっている。天井の形状に合わせて900ピッチに湾曲した山型鋼が設けられ、山形鋼の鉛直材(L-30x30x2)及び斜材(L-40x40x2)によってSRCトラス梁から支持されている。短手方向では19mスパンのSRCトラス梁の下端中央に設けられた一対の斜材(L-40x40x2)のみが水平力抵抗要素となっている(写真2)。


写真2 既存の天井の構造

■改修計画
 原設計の意匠を尊重し、客席部の湾曲面の連続した天井の雰囲気を維持し、既存天井の木仕上げを残したまま天井裏で部材を追加して補強を行った。水平震度2.02G、鉛直震度1.00Gに対して部材や接合部が短期許容耐力以内となることを目標耐震性能とした。

 客席上部X(長辺)方向は、900ピッチに既存の鋼材ブレースが配置されているが、接合部の耐力が不足するため、SRCトラス梁と鋼材の接合部補強を行った。客席上部Y(短辺)方向は地震力を負担するブレースが不足するため、SRCトラス梁の両側にブレース架構を追加した(写真3)。


写真3 改修後の天井の構造

 天井面は板厚12mm、巾77mmのラワン材が900ピッチで直径3.8mmのネジによって野縁に接合されていた。鉄骨フレーム間は木質構造として地震力に抵抗する必要があるが、平面剛性と強度とも不十分で補強が必要であった。野縁の上部に木板(厚さ30mm)の水平ブレースを設け剛性と強度を確保した(写真4)。また、ラワン材の落下防止のため、野縁へのビス止めを追加した。


写真4 天井面の木部の補強

 地震時の天井の被害としては外周部で壁と衝突して破損することが多い。その対応として天井の周囲は300o以上の水平クリアランスを設けた。

 一方、ステージ上部の既存の支持構造は耐震性が極めて低いことから、部材を付け替え、天井板も意匠性を維持して作り替えることとした。その際に、舞台での演奏時の性能を向上するために、反射板形状を一部縁甲板形状に変更し、反射板と壁、天井間の隙間を小さくするなどの改良を行った(図4、写真5)。

図4 ステージ上部の鉄骨架構の計画

写真5 ステージ上部の鉄骨架構

 また、舞台側面と後面には湾曲したブロック壁が用いられており、これについても地震時の倒壊防止のため裏側に鉄骨柱による補強を施した(写真6)。


写真6 舞台裏ブロック壁の補強

■補強後の構造性能の確認
 補強後の天井について天井架構全体をモデル化し、フレーム解析プログラム(MIDAS/GEN)を用いて固有値解析を行った(図5)。補強後の天井部の固有周期は、短手方向で0.047秒、長手X方向で0.023秒となり、十分に剛な天井架構となることを確認した。建物の屋根が曲面となっているため、水平動によって励起される上下動の影響を検討し、上下動の検討用地震力の妥当性を検討し、水平動に伴う鉛直方向の振動増幅の影響は小さいことを確認した。


図5 固有値解析モデル

 木造部の力学的な性能の確認を目的とし、施工に先立ち表1に示す実験を行った。ユニット面内せん断試験は現地の天井から切り出した試験体を用いた。実験の結果、構造検討のモデル化と実際の状況が適合することが確認できた。

表1 木造部の性能検証実験

野縁切欠き部

純曲げ試験

ボルト接合部

めり込み試験、水平載架試験

ビス接合部

天井板・頭抜け試験
野縁・引き抜き試験
繊維直交方向水平載架試験
繊維方向水平載架試験

天井面

ユニット面内せん断試験