TIT建築設計教育研究会による卒業制作優秀作品発表会

金箱温春(昭和50年卒/東京工業大学特定教授/TIT建築設計教育研究会運営委員長)

■TIT建築設計教育研究会とは 

 TIT建築設計教育研究会は、東工大における建築設計教育の支援を目的として1990年に設立された組織であり、本学の卒業生の個人または関与する法人を会員として活動を続けており、冬夏会会員の多くの皆様にも活動に参加いただいております。その中核の活動として、卒業制作と修士制作での優れた作品に対して「大岡山建築賞」と「大岡山建築賞銀賞」を授与しております。また、毎年、機関紙「ka」を発行して上記の受賞作品を含め、大学での設計教育の実績や関連する活動について紹介しています。

 「大岡山建築賞」と「大岡山建築賞銀賞」については、今までは学内の建築学系の教員による選定を受けて6月の総会において表彰を行い、受賞者発表会により会員との質疑応答を行っておりました。しかしながら、発表を聞くだけではなく自分たちが選考するような賞にできないかと、そのことによって研究会の活性化も図られるのではないかという会員からの意見の高まりを受け、研究会の運営会議で実施に向けての検討を重ねました。学内の建築学系の先生方のご理解も得られた結果、昨年度(平成31年・令和元年)より、卒業制作については研究会の個人会員及び法人会員の代表者(その年度の会費を納入している者に限定)による選考会議によって表彰作品を決定することとなりました。

■白熱した選考会

 初めての試みとなる選考会は2月22日に予定され、幸いなことに新型コロナ感染の影響が顕著となる前に実施することができました。選考会に先立ち、当日の午前中に学内の選考を経た10作品を展示して事前に作品を見る機会を設けました。熱心な会員は午前中から設計作品を見て回り、そこで設計した学生と議論する光景も見られました。


学生のプレゼンテーションの様子

 午後からは、32名の会員と1名のゲストの参加により「卒業制作優秀作品発表会」という名称での選考会が開かれました。選考会では10作品についてそれぞれプレゼンテーションと質疑回答を行い、その後に一人の持ち票を3票として1次投票を行い、その後にその結果を踏まえて全体での討論を行いました。出席した会員からそれぞれの作品についての評価が述べられ、最初のうちは穏やかに案の評価すべき点を述べていましたが、途中から会員がそれぞれ自分の推薦する案について他の案にはない優れた点の主張も行うようになり議論は熱を帯びていきました。

 いずれの作品も一定以上のレベルにあり素晴らしいものですが、賞を与えるということは相対的な評価を下さないといけないことであり、参加した会員は厳しい議論と苦渋の決断とを強いられることとなりました。予定の時間を大幅に超過しての議論の末、一人1票による2次投票を行い、大岡山建築賞2点、大岡山建築賞銀賞2点を決定しました。

■受賞作品

 大岡山建築賞は、小林由佳さんと松下龍太郎さんの2名が選ばれました。小林さんの作品は「神子畑の記憶 ―産業遺構とその歴史を見せる整備計画−」というタイトルで、使われなくなった産業遺構を活用するというものでリアリティのある提案です。松下さんの作品は「現代アジール論 ―皇居前広場回遊路計画―」というタイトルで誰もが知っている場所をどう変えうるかという可能性を追求した独創的な提案です。

 また長沼徹さんは「木と場 〜木造化による都市の更新とその拠点の提案〜」により、大貫絵莉子さんは「はばたく 〜都心の森における野鳥保護施設の提案」により大岡山建築賞銀賞に選ばれました。いずれも東京の街において場所のポテンシャルを生かした提案を行った作品です。

受賞された学生の皆さん 熱心に傍聴する学生たち

■初めての試みを終えて

 予定より1時間以上の多くの時間を費やした選考となり、そのプロセスは学生にも公開されましたので、選考対象となった学生だけではなく他の学生にとっても、賞の選ばれ方や何が評価されるかなど、得るものが多かったのではないでしょうか。初めての試みで心配ごともありましたが盛況のうちに終えることができ、研究会の活性化に寄与したものと思います。参加いただいた研究会の会員の皆様、ご協力いただきました学内の先生方、当日の発表の準備を手伝っていただいた学生の皆様にお礼申し上げます。なお、本来は6月の総会において正式な賞状、賞牌を贈呈する予定でしたが、新型コロナ感染の影響を受けて延期した状態となっております。

 冬夏会とともにTIT建築設計教育研究会の活動へのご理解、ご協力をお願いいたします。