大地震時にも大規模都市建築の機能維持をはかるSOFTechプロジェクト

山田哲(東京工業大学教授)

 我が国は、世界でも最も火山・地震活動の活発な地域に位置していることから、耐震研究が盛んに行われています。1981年に施行された新耐震基準は、それまでの地震被害の経験や、計算機の発達により高められた、当時の我が国における最先端の耐震技術に基づくものであり、新耐震基準で設計された建物については、大地震時に倒壊・崩壊する建物があまり発生しなくなりました。ただし、新耐震基準であれば被害を受けないわけではなく、兵庫県南部地震(1995年)や東日本大震災(2011年)、そして熊本地震(2016年)でも、大きな被害を受けたことで使えなくなり取り壊された、新耐震基準で設計された建物がいくつもあります。新耐震基準は、建物の寿命の内に一度起こるかどうかという強さの地震に対して、建物を倒壊・崩壊させないための最低基準であり、大地震を受けた後もそのまま使えることを保証するものではなく、また、建築基準法の想定を上回る強い地震も発生します。

 大地震時に建物を倒壊させないだけではなく、大地震直後にもそのまま使えるようにという考え方は、1995年の兵庫県南部地震を契機に広まりはじめ、和田章名誉教授や笠井和彦名誉教授らがリードし、免震構造、制振構造に関わる研究が進められ、病院などの重要施設や超高層建築が免震構造、制振構造で建てられるようになってきました。しかし、建築基準法で想定する地震の強さに対して、建物を支える構造部材にある程度の損傷の発生を許容した設計がなされることも多く、建物の機能に関わる設備機器や天井・壁といった非構造部材の性能を損なわないためには、建物全体をどのように設計すれば良いかというところまでは、あまり研究が進んでいません。

 経済や行政などの社会機能が集まる大都市には、超高層建築が建ち並んでおり、住宅の高層化も進んでいます。このような大都市を巨大地震などの自然災害が襲った場合、建物自体の倒壊は免れたとしても多くの建物で機能が停止すると、社会機能が長期間にわたり麻痺することになります。そこで、超高層建築など社会機能の中枢となっている大規模都

 

市建築を対象に、大きな自然災害が発生しても社会活動が維持できる技術の創出を目標として、東京工業大学を幹事機関として、東北大学、東京大学、神戸大学、および33社・機関(令和元年9月現在)によるコンソーシアム「社会活動継続技術共創コンソーシアム(SOFTech)」を立ち上げ、産学連携での研究開発を進めています。これは、2017年度の科学技術振興機構(JST)の「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)」に採択された5年間のプロジェクトになります。


図1 SOFTechにおける研究開発の目標

 SOFTechでは、図2に示す「建物構造体の安全確保」、「耐震部材の安全検証」、「建物設備の機能維持」、「安全・機能の数値化」、「社会活動維持のための安心の実現」の5つのキーテクノロジーについて、建築学から電気・通信、心理学など様々な分野の研究者が協力して研究を進めています。


図2 5つのキーテクノロジー

 これまでも東工大の強みであった「建築構造体の安全確保」については建築基準法の1.5倍の強さの地震に対しても構造体の損傷を補修不要なレベルに留める合理的な技術の開発に取り組んでいます。耐震部材の安全検証」については、耐震偽装事件で問題となった免震部材に限らず、性能検証実験ができていないまま使われている大型構造部材の性能検証に必要な実験装置の実現を目指し、装置の必要性を示すための学術検討なども行っています。また、「建築設備の機能維持」については、精力的に実験・解析を行い、直接人と接する天井材や壁材に関して、耐震性能や経年劣化を評価する上で必要な物理量の把握、耐震設計に必要な力学モデルの構築といった成果を得ています。「安全・機能の数値化」については、未来産業技術研究所など学内の電気・通信系の先生方の協力を得て、モニタリングのためのセンサやデータを収集する技術を研究しています。そして、「社会活動維持のための安心の実現」については、リベラルアーツ教育研究院の先生とも協力し、地震時における心理生理作用的反応の定量化や、避難支援のための情報提供に関する研究を進めています。