ELSI地球生命研究所新棟が石川台地区に竣工

塚本由晴(昭和62年卒/本学教授)
能作文徳(平成17年卒/本学助教)

 石川台地区に地球の起源と生命の起源を研究するELSI(Earth-Life Science Institute)地球生命研究所新棟が竣工しました。優秀な研究者を世界中から集めて、分野横断的な交流を促すことで、イノベーションを生み出す空間が求められました。意匠は塚本由晴研究室、構造は竹内徹研究室が担当しました。

 この新棟の建物は、研究者1〜4名程度に対応する大小様々な研究室、研究者間のコミュニケーションを尊重し、ゆったりと自由な議論ができるラウンジ、研究を発信するためにギャラリーとレクチャーホール、見学に対応できる本格的な実験室など、性格の異なる多様な空間によって構成されています。これらを石川台キャンパスの門やトンネルと既存の校舎の間の限られた敷地におさめた結果、幅87m奥行14mの長くて浅い地下1階地上3階建ての建物になりました。軒の高さは住宅地に対する日照確保のため低く抑えられています。 天井高 4.5 m のガラス張りの1階は段差無く周囲の外構と連続し、中央に車道を通してメインエントランスとギャラリーのある西側と、ホールとホワイエのある東側を分けています。 これにより建物全体のゲート性、 1階の開放性が強調されています。一方、水平に窓が連続する2階、3階では、開放的な北面に研究室を集め、穏やかな光を取り入れるようにしました。住宅地に対する夜間の光害、プライバシー侵害への懸念を払拭するため、東西北面の水平連窓に障子を導入しました。開閉可能な窓と障子を組み合わせたダブルスキンは、採光(拡散光)、通風、断熱、集熱にと、臨機応変に対応できます。部屋の大きさの違いは、中央の廊下の雁行に現われ、路地のような雰囲気を生み出しています。 こうした水平連窓や間仕切りの自由さは、建物の外周や中央から柱をずらすことによって可能となりました。9m間隔の二本の柱の両側に 2.5 m 張り出した 14m の短手構面を8m 間隔で長手に反復した現場打ちコンクリートによる柱梁に、工場で制作したリブ付きコンクリート床版を組み込んだ固いスケルトンの外周を、アルミ引き違い窓で覆い、間仕切りで仕切った室内側には木製窓枠、間接照明、カーペットを設えて柔らかい素材を居住域に加えました。スケルトン・インフィルの形式は、将来の用途変更にも対応するものです。

北西面外観 ELSI AGORA

 石川台キャンパス中央の桜並木の軸にあわせた中央部分では、南側の3階床と間仕切りを外し、コンクリートの柱梁を露しにした吹き抜けに、ソファーやダイニング、キッチンを置いて、研究者が自然に集うアゴラとしました。その屋上にも小さいながらテラスが用意されています。東面、西面に回り込んだ明るい廊下に面してトイレ、リフレッシュスペース、和室を配し、研究環境の居住性を高めています。地下の実験室は地上部よりもさらに敷地境界側に掘り込み、大きな空間を確保しています。見学コースとなることを想定し、廊下との仕切りには横長の窓が設けられています。外構はフェンスをセットバックし、歩道を整備したため少し狭くなりましたが、桜,椎,白樫,ハナミズキを植え、石川台キャンパスのゲートとしてふさわしい構えとしました。このように、研究,交流,発信から周囲の環境への調和まで多様な配慮を統合することによって、知の相乗効果(シナジー)が生まれることを期待しています。また、「ピロティ、水平連窓、自由な平面、自由な立面、屋上庭園」という近代建築の5原則と「障子」による構成は、東工大キャンパスの建築に共有された理知的な性質を継承しつつ、研究機関としての世界性と、東京にあることの固有性の獲得に務めた結果です。

Entrance ELSI HALL