すずかけ台キャンパスの環境整備

大野隆造(昭和47年卒/本学教授 すずかけ台キャンパス環境整備WG主査)

 1969年3月、大岡山キャンパスでは学生達が大学の施設を次々に封鎖占拠して騒然としている頃、長津田地区に第2キャンパス建設を推進するため、加藤六美教授(昭和9年卒)を委員長とする岡部地区利用委員会が発足した。翌年3月には、学長となった加藤教授のもとに長津田建設計画室が設置され、計画の具体化が推し進められることになった。そして1975年には、学部を持たない大学院独立研究科として、学際的な研究領域の教育・研究を行う総合理工学研究科が生まれ、それに属する専攻と、それまで石川台地区にあった工業材料研究所を含む3研究所の建物が建設され順次移転した。さらに、1990年にはこのキャンパスを拠点として生命理工学部が発足する。その後、1995年の総合理工学研究科の改組拡充、1996年の工業材料研究所の改組、名称変更などを経て、今日に至っている。なお、2001年に「長津田キャンパス」から「すずかけ台キャンパス」と改名されたが、この名称はプラトンのアカデミアに多く植えられたスズカケノキ(プラタナス)に由来するという。

 その後、教育・研究に関わる施設が急速に充実する一方、学生、教職員の生活の場としてのキャンパス環境の整備は立ち遅れた状態であった。特に、学部を持たない総合理工学研究科では、大岡山からよりも他大学から入学する学生が多く、研究中心の大学院であるという性格上、研究室に籠りがちで学生間の交流が乏しく精神的に孤立してしまう傾向がある。そこで、すずかけ台キャンパス環境整備WGでは、安全で快適な歩行者サーキュレーション空間の確保と、学生が相互に交流できる場所づくりを通して、学生の屋外での活動を支援する環境作りを進めることにした。具体的には、自動車動線を外周部にできるだけ限定して、内側にはサービス車両をのぞいて歩行者動線だけとし、また「加藤山」散策路を設けて自然に触れて心身の疲れを癒すことができる回遊路を整備している。また、要所にバーベキューができるポケット・スペースを作り、学生同士や教員との交流の場を提供している。さらに現在、美術大学の協力を得て、屋外アートなどを各所に設置する計画も進みつつある。

 このような整備を通して、学生にとって大学キャンパスが単なる一時期の通過点ではなく、そこにまた訪れたいと思える愛着が持てる場所となり、他の人を連れて行きたい誇りを持てる場所となればと思う。いずれにしても、学生が最も多感な時期を過ごす環境として、良質なキャンパスは、知的生産性の向上に寄与するだけでなく、将来にわたって続く学友同士の交流を育む上でも重要である。

J3高層棟20階からの見下ろし。右側に「加藤山」と呼ばれる保存緑地、中央の円形屋根は食堂のある大学会館、その間には、遊水地の上に蓋をして作られたウッドデッキがある。
ウッドデッキ脇にあるバーベキュー・コーナーからのJ2/J3高層棟の見上げ。左側の「加藤山」には、散策路が設けられている。