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古村福次郎先生を悼む

安部武雄(昭和58年博士/本学元教員)
篠原保二(昭和51年卒/本学准教授)

 古村福次郎先生が2014年10月31日に永眠されました。1997年3月に東京工業大学を定年退職された後、ご趣味の囲碁と海外旅行(主にEU諸国)を楽しんでおられました。しかしながら2014年2月に結腸がんで倒れ、闘病を続けられてこられましたが、満77歳で他界されました。

 先生は1937年3月17日に佐賀県に生まれ、1955年に東京工業大学に入学し、谷口吉郎研究室で卒業研究を行い、19 59年卒業後、安田火災海上保険(現:損害保険ジャパン)に入社されました。しかし研究に対する情熱が強く、1964年4月に建築学科原田有研究室の助手として帰学し、耐火構造に関する研究に取り組みました。1970年7月に本学退職後、1970年8月、日本建築総合試験所に在籍し、建築構造部材の構造性能実験に従事しました。その間、助手時代の研究を取りまとめた「火災を対象とした鉄筋コンクリートおよび鋼構造部材の力学的性状に関する研究」の論文題目で1971年6月に学位(工学博士)を取得されました。1973年7月に、本学工業材料研究所助教授に任官され、1982年7月に、同研究所教授に昇任されました。1996年5月の研究所改組に伴い、建築物理研究センターを設置し、その初代所長として建築系教員の研究教育活動の拠点づくりに尽力されました。

 古村先生の研究の中でも特記すべき研究は、火災時を対象とした構造材料の高温クリープ挙動です。当時、1/100mm感度のダイヤルゲージ型変位計が主流でしたが、先生は常々、1/1000mmまでの変形を正確に計測できなければ材料の力学特性は把握できないと言われ、実験精度の向上に精力を注ぎました。その結果、高温時における構造材料の応力ひずみ、熱ひずみ、クリープ挙動を明らかにするとともに、各ひずみ成分を分析し、加熱中の変形挙動を予測するためのクリープ法則を提案しました。この研究成果は国際的にも高く評価され、海外の多くの研究者と交流関係が生まれました。さらに、材料実験で得られた材料特性に基づいて、火災時の建造物の力学的挙動を部材実験および解析によって明らかにしました。

 古村先生の実験に対する情熱は火災と同様に熱く、石川台時代は、研究室に実験装置を設置し、すずかけ台キャンパスに移動後は、実験棟に研究室を構え、絶え間なく実験経過を注視しておられました。昼休みの囲碁の対局では、戦局が熱くなると、その熱気に押されたのかクリープ曲線が微妙に乱れ、あわてて扇風機を回してクールダウンを図るという一幕もありました。

 先生は研究に対してとても厳しく、納得のいかない実験結果や論理展開に対しては、相手が誰であれ最後まで徹底的に議論を尽くしました。その毅然とした研究姿勢は大学の教育や運営に関する議論に対しても同様であり、妥協を許さない先生の迫力ある熱弁は圧倒的なものでした。

 最後に、先生は人生の中で最も楽しかったことの一つに自由に研究ができたことを挙げたそうです。そして私たちは先生の真摯な研究態度から多くのことを学ばせていただきました。深く感謝し、先生の御冥福をお祈りします。合掌。