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小野英哲名誉教授 建築学会賞(技術)受賞

三上 貴正(昭和55年卒/本学情報環境学専攻 准教授)

小野英哲先生が,このたび2007年日本建築学会賞(技術)を受賞されました。この慶事を祝しますとともに,会員の皆様に先生のご業績をご紹介させて頂きます。

  本学名誉教授小野英哲先生は,昭和41年東北大学をご卒業後,東北大学助手を経て,昭和44年に本学建築学科建築材料講座吉岡丹研究室助手,その後,昭和53年に同学科助教授,昭和62年に同教授になられ,平成13年に定年退官と同時に本学名誉教授になられ,以降,東北工業大学建築学科教授としてご活躍中です。

  小野先生は,本学助手時代の昭和52年に「体育館の床の性能評価に関する研究」で,若くしてすでに日本建築学会賞(論文)を受賞されております。

  今回は「床のすべりの測定・評価技術の開発と適用」の研究業績に対して,同学会賞(技術)を受賞されました。

  日本建築学会で,同一分野で同一人が2度も受賞することは極めて稀であることからも,小野先生が(論文)と(技術)の2賞を受賞されたことは,たいへん価値あることと思います。

  床のすべりに関しては,国内外において従来から数多くの研究がなされてきました。これら既往の研究の多くは,「すべり抵抗」を単に床表面と履物底との摩擦として把握しているのに対して,小野先生の基本理念の特徴は,この摩擦特性に加えて,床凹凸への履物底の食い込み,床と履物底の間の介在物などの要因も含めた複合的な実情のすべりを,新たに開発したすべり試験機による「すべり抵抗係数」という独自の指標で一元的に捉えているところにあります。さらに,携帯型すべり試験機を開発し,より簡易な測定も可能にしました。併せて,精神物理学的手法を適用して「すべりの評価指標」を多数構成し,実用的なすべりの評価方法の体系を発展させました。

  また「建築材料,構法学」を志す我々後進にとって,小野先生の受賞はもうひとつの深い意味を有しています。すなわち,人間の居住する器を対象とする学問である建築学において,研究は如何にあるべきかというひとつの方向性を明解に指し示されている点です。

  昨今,性能という言葉が概念があいまいなままに建築のいろいろな分野で使用されつつありますが,これまでは工学的に評価し易い性能項目がおもに検討されてきました。しかし,住み心地や使い心地の良さなどに関わる建築独特の性能項目の中には,既往の理論や技術の適用だけでは解決できない課題を含むものも少なくありません。

  このような研究対象に関し,永きにわたり先駆的な立場から独自の観点,手法で研究を展開してこられた小野先生の今回の受賞は,我々後進の研究者に対して性能という概念の重要性に関しても改めて深いご示唆を与えて下さったものと考えます。深く感謝するとともに,心からお祝い申し上げる次第です。

 小野先生の益々のご健勝をお祈り申し上げます。