2023年夏の建築学系キャンパス移転

那須聖(平成6年卒/本学准教授)

 東京工業大学の旧建築学科と関連する専攻が一体化した新体制「建築学系」が誕生して早7年が経ちました。建築学、社会工学、情報環境学、人間環境システム、環境理工学創造の各専攻と建築物理研究センターの教員が、一つの建築学系としてまとまり教育を展開して参りました。そして、次なる変化は物理的な環境によるものです。2023年夏、建築学系は住み慣れた緑が丘を離れ、大岡山と田町へ教育・研究の場が移ります。多くの卒業生を長年に渡り輩出したキャンパスを離れるのは名残惜しいですが、大学全体の変革の中にあって、伝統を継承しながら次世代を育む場となることを期待しています。

 今回の移転は2030年に予定されている田町キャンパス再開発の国際的な産学連携拠点形成に関連したものです。再開発にあたり附属科学技術高等学校の移転先として緑が丘地区が候補となったことをきっかけに、建築学系の今後の教育体制の充実、国際化、社会連携などの議論を経た上での決断でした。緑が丘1号館と2号館の跡地に附属科学技術高等学校が建設される予定であり、その工事に先駆けて、緑が丘地区にある構造・材料系、環境系の研究室は大岡山西地区へ、意匠系研究室は田町地区(暫定的に既存のCIC棟)へと移転します。来秋以降は、意匠系の国際的なデザイン教育・研究拠点としての田町、建築学の学部教育と研究拠点としての大岡山、研究院が中心となる大型研究拠点としてのすずかけ台の3拠点体制となり、大学全体で定めた3キャンパスの特性を活かしたキャンパス計画を実現するものとも言えます。

 現在、大岡山西地区では移転先の建築工事が進行中です。西5号館は、水力実験棟がかつてあった場所の西側、生協第1食堂跡地に建ちます。地下階に鉄骨系の実験工場、1階に教室群、2階に食堂、3階に建築学系研究室、4階に製図室がある、水平基調の建築です。最上階4階の製図室はヴォールト屋根の下で2・3・4年生が一堂に介して設計を学ぶ空間です。西6号館は、グラウンドの北端に位置することから、防球と日射調整を兼ねたエキスパンドメタルのスクリーンを持つファサードで、地下階・1階・2階に材料系・RC系・地盤系の実験工場と研究室、3階に建築学系と土木・環境工学系の研究室、4階に土木・環境工学系の研究室があります。移転が完了すると、西5号館と西6号館は、隣接する西8号館、西9号館とともに、建築学系と土木・環境工学系の大岡山における拠点となります。また、大岡山地区の北端は、間も無く建設に移る正門と守衛所も含め、百年記念館、Tokyo Tech Front、Taki Plaza、附属図書館、70周年記念講堂、西5号館と新しく出来る階段広場、西6号館が連なる空間が出来上がります。田町キャンパスの再開発だけでなく、すずかけ台キャンパスも今後、再開発が予定されています。

  かつて清家清先生は自身が初代校長を務めた札幌市立高等専門学校(構想時は「札幌市立芸術専科大学」)の計画にあたり、その校舎を「学苑」と称していました。塀で囲まれた「学園」に対して、空中歩廊で繋がれた校舎群は塀がなく、周囲の森とともにある学び舎です。物理的に囲いの無い「学苑」が構想されたように、現代においては物理的な囲いのみならず時空をも超えた新しいキャンパス像と新しい活動形態が求められるでしょう。コロナ禍の試行錯誤の中でオンラインでの教育研究が進んだように、現代のネットワーク社会、さらには仮想化社会においては、現実空間にある境界や距離も乗り越えることは十分に可能です。一方、自分の目で確かめ、実際に手で触れる機会を生かす教育・研究もその価値がより一層見直されていくでしょう。新しいキャンパスで、社会、国際、未来へと垣根を越えて、創造の手を広げる次世代の活躍にご期待ください。


現在の緑が丘1号館と中庭

西5号館(左:南西から階段広場とともに)、西6号館(右:グラウンド側のエキスパンドメタル・スクリーンのファサード パース提供:久米設計(両施設とも実施設計)
   

西5号館最上階の製図室
パース提供:那須研究室

工事現場(2022年11月 撮影)