すずかけ台キャンパスに「元素戦略研究センター」が完成

村田涼(平成9年卒/本学准教授)

 2015年3月、すずかけ台キャンパス内の正門に程近い一角に、元素戦略研究センターの新棟(S8棟、通称:元素キューブ)が竣工しました。この建物は、平成24年度文部科学省「元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>」の一環として研究組織が設置されたことを受け、学内の材料科学研究の新たな拠点として、また、研究者や学生を含む多くの人材が集結する開かれた人材育成の拠点として新築されたものです。本施設の整備にあたり、基本計画段階から本学の建築系教員、建物利用予定の教員および施設運営部が連携して設計プロジェクトチームを組織しました。実施設計ではさらに学外の設計事務所と協働し、設計から施工監理まで一貫して緊密な協働体制のもとで行うことができました。建築学専攻からは村田涼研究室が意匠設計を、竹内徹研究室が構造設計を、安田幸一研究室が基本構想を担当しました。

 東急田園都市線の最寄り駅を降り、歩行者のメインゲートであるすずかけ門を抜けると、目の前には丘陵地に広がるキャンパスの風景が一望されます。林立するグレイッシュな建築群は周囲のみどり豊かな森と強いコントラストをなし、印象的な景観をつくりだしています。設計にあたり、このような工業大学ならではとも言える特徴ある風景に寄り添いつつ、同時に、キャンパスの玄関口にふさわしい、将来にわたり秩序ある佇まいを供するような建物のあり方が目指されました。また、最先端の実験が日々行われる施設にあって、研究者の方々が自然の光や風の心地よさを享受しながらリラックスして議論や休息ができる、親自然的な執務環境も希求されました。そこで、もとは駐車場だった一辺が約30m、対角が南北と東西の方位に一致する正方形の敷地なりに、地上5階地下1階、延床面積約4,500uのコンパクトな立方体を建ち上げ、これをプレキャストコンクリートの堅牢な外装で包み、さらに建物があたかも呼吸をするかのように無数の窓を穿った建物としました。立方体と窓という原初的な建築のエレメントによって、自律的でありながらしなやかに内外の環境条件に応答するパッシブデザインのかたちが志向されたのです。

 各階の構成は、1階には北西側にカツラの並木を望む開放的なエントランスホールと連続して、地下を掘り込むように約130名を収容するレクチャーホールが設けられています。これらは個別に、時に一体的に講演会や研究発表会などさまざまな用途で使用され、研究交流を促進すると共に、憩いの場となることが期待されています。地階および2階以上はセキュリティが確保された、同センターの研究実験用のフロアとなっています。

 主要な研究実験スペースである2〜5階の各階は、大部屋(約240m2)のオープンラボと、研究室や会議室といった小部屋群(一部屋約30m2)からなります。この内、安定した室内環境が望まれるオープンラボは北側の角に配置され、自然光の影響が最小限に抑えられているのに対し、研究室・会議室群は太陽の動きをなぞるように南東から南西にかけてレイアウトされ、自然光を積極的に採り入れた空間となっています。これらの諸室は、建物の外観を秩序立てる、均等に反復する縦長の窓を備えていますが、太陽に対する部屋のポジショニングの違いによって、各々の用途に適した室内環境が得られるように計画されています。

  さらに、南西側の外観を特徴付けている、1階から空に向かって斜行する大開口には、斜めに吹き抜けた階段ラウンジが対応しています。ここでは、人と光のたまり、空気の流れへの応答を表すように窓が大きく変形し、日時計のように刻々と変化する光と影、風のそよぎを感じながら、研究交流や休息が行える親自然的なラウンジスペースを形成しています。また、夜間には暖かな色の照明が灯り、1階エントランスホールの水平連窓と階段ラウンジの斜めの連窓が一体となって、巨大なランタンのようにキャンパスを優しく照らしています。

 このような空間と環境の統合的なデザインは、強靱かつしなやかな構造計画があればこそ可能となっています。建物の骨組み中央には、地震エネルギーを吸収する部材で支えられた心棒架構(制御型スパイン架構)が全層を通して挿入されています。この心棒が各層の損傷を分散することで、建築基準法の規定を超える巨大地震時でも特定層に被害が集中せず、周囲のやわらかい骨組みによって地震後に原点に戻るよう設計されています。この構法は最新技術によるものですが、考え方は古来の五重の塔の芯柱に通じるものであり、G3棟などすずかけ台キャンパスの耐震補強にも生かされています。

 本センターは国内外の研究機関と連携し、共同研究や実用化に向けたオープンでグローバルなラボとしての機能を充実した最先端の研究拠点施設として、より一層の研究活動の推進や活性化が期待されています。


西側全景。大きな開口は夜になるとランタンのように暖かな光が灯る


斜めの吹抜けに沿って階段と窓が連なるラウンジスペース
*写真すべて:撮影 鈴木淳平