すずかけ台キャンパスとペリパトス:開放的になったG地区へのアクセス

那須 聖(平成6年卒/本学准教授)

 すずかけ台キャンパスは1975年に開設され、当初、総合理工学研究科のみであった組織も、研究科、研究所、機構、センターを複数加え、組織もキャンパスも大きく変遷してきました。キャンパスの歴史ももうすぐ40年になろうとしています。2012年、私が人間環境システム専攻の教員として着任した際に最初に感じたのは、駅から歩いていく道のりの開放的で整備された姿でした。学生時代、授業のために訪れた面影は建物については残っていますが、外部の環境については大きく様変わりした感があります。私たちの専攻のあるG地区は、キャンパスの一番奥に位置する場所ですので、キャンパスの変化にとんだ外部環境を最も感じることができると言っても良いかもしれません。日常、教職員や学生たちは、駅から研究室や職場、教室まで通勤・通学や、昼休み、授業の移動等、キャンパス内の外部を利用する機会も多く、また、地域住民が広場で活動している姿を見ると、外部環境が貴重な資源となっていることが想像できます。

 キャンパスの外部空間について、すずかけ台キャンパスが長津田キャンパスから名称を変えたのは2001年ですが、2006年には、キャンパスの具体的で明快な将来ビジョンの必要性から、〈すずかけ「ペリパトスの研杜」21将来計画〉が取りまとめられています。その中でキャンパスの目指すべき方向として「自然環境の保護」、「知的活動環境の改善」、「安全性と安心の向上」、「地域貢献の達成」があげられており、そこで、重要な役割を果たすのが恵まれた自然環境と、周辺地域へも開放された外部空間の整備です。この計画に基づいて歩車分離・歩車共存の取組み、加藤山散策路の整備、ストリートファニチュアの充実等が行われてきました。プラトン、アリストテレスが逍遥(ペリパトス)によって学を深めたように、日々の散策の場所は、学問の場所として位置づけられています。

  これら一連の整備の中で、最も奥に位置するG地区への歩行者動線は、地区へのゲートでもあると同時に、駅からキャンパス全体を貫くシークエンスのエピローグとも考えられます。今年の春、G2棟の改修工事とあわせて、加藤山からG地区への接続部分がピロティ化されたことでスムーズな往来が確保され、地区のゲートとして日々、私たちを出迎えてくれています。これまでG地区は、車両が入構してくる長津田門側から近づいた場合は、低層のG4棟をくぐって中庭部分に入る流れが出来ていたのですが、鉄道を利用する人々は生協前の広場から加藤山を抜けてたどり着くため、G2棟の1階を通り抜けなければならず、夜間は建物の外側を迂回して通る必要がありました。今回の改修は建築学専攻の奥山信一先生の研究室が計画をまとめられ、ゆったりとした階段を下りていくと、赤、黄、緑、青の間接照明に彩られたピロティをくぐり、中庭を介して対面するG3棟のピロティへと視線が抜ける構成になっています。広場を中心として、複数の方向へ通ずる吹抜けが完成したことは、移動の利便性はもちろんのこと、地区の開放性をイメージさせる上でも効果があると考えられます。

 このように、時間をかけて段階的にですが、すずかけ台キャンパスの外部環境がより充実したものに変化しています。実は、来客の中には、G地区へ向かう途中、加藤山を通り抜ける際のトンネルで不安になるということもあるようですが、徐々に、全体の関係性を考慮した上で、整備が進められていくでしょう。女子美術大学と総合理工学研究科との交流協定によって、屋外彫刻が展示されているペリパトスオープンギャラリーもその一つであり、散策の最中に彫刻作品に目をやり、気を休めたり思いに耽ったりすることもできそうです。このキャンパスの整備については、現在、すずかけ台キャンパス環境整備ワーキンググループによって、その考え方や具体的な方法が、定期的に検討されており、案件の策定から実施まで一貫した体制で取組みが行われています。ワーキンググループの主要メンバーは建築系・土木系の教員ならびに施設課の職員によって構成されており、私も一昨年からグループの一員に加わりました。また、私の所属する人間環境システム専攻においても、環境整備や建築の課題発見と課題解決を、日常の環境を題材に取り組もうと考え、修士1年の学生が共同で行う、人間環境システム特別実験第一の授業において、すずかけ台のキャンパスライフの提案や、小規模なシェルターによってキャンパスに魅力的な場所を提供することを課題として行っています。学生は、異なる専門分野にまたがってグループを編成し、それぞれの能力を活かして計画案を議論、制作しています。いずれは、現在のキャンパスを体験した学生が、このキャンパスに新しい空間を創造する日も来るのではないかと考えています。
加藤山からのアクセス G地区から加藤山、駅方面へ向かう
G地区の中庭:右奥が改修されたG2棟のピロティ