多孔質で表裏のない建築:『緑が丘6号館』の設計について

奥山信一(昭和61年卒/本学教授)
竹内 徹(昭和57年卒/本学教授)

 緑が丘地区の旧社会工学棟前のパーキングスペースに、地上4階地下1階、延床面積約4,500uRC造の新研究棟が竣工しました。残念ながら私たち建築系研究者が入居する研究棟ではなく、生命理工学研究科の最先端研究を行なう実験棟です。GMI(グリーンマテリアルイノベーション拠点施設)という名称で、2010年度に提出された文科省への概算要求が採択されたプロジェクトです。長い間、建設系の牙城であった緑が丘地区に、他分野の拠点施設が計画されるということで、周囲との調和も含めた環境整備の必要性もあり、建築構造サイドでは竹内が、意匠サイドでは奥山が設計監修という立場で加わり、このプロジェクトを進めることになりました。私たち建築系が研究実験で主に使用できない建物であっても、緑が丘地区に分散している既存建物群に統合性と求心性をもたらし、新たなキャンパス環境として再編しうる建物として立ち現れることを目標としました。

 すでに述べましたが、緑が丘地区の中心部に建設されるということから、緑が丘3号館(旧社会工学棟)、緑が丘講義棟(M011)、緑が丘4号館(旧文教施設研究センター棟)といった隣接既存建物との間に生じる外部空間のデザイン、および西門からのアプローチ、開通間近の緑が丘駅直結の学内アクセス、緑が丘1号館(土建棟)との芝生の広場を介した接続など、動線的かつ空間的に周囲とのさまざまな関係を検討する必要がありました。また、生命理工学の研究は基本的に化学系に属するため、ドラフトチャンバーの排気ダクトや夥しい数の排水設備などの設置を設計当初から想定する必要がありました。

 このような内的にも外的にも多様な状況へ個別に対応し、その集積として新しい建築の姿を描くことも可能ではあります。しかし、そうした方法は極めて都市的なコンテクストに反応したコンセプトであり、緑が丘地区の現状に、ある種の求心性をもたらす方法にはなりえないと直観しました。そこで、多様な条件を許容しつつ、なおかつ強固な単一の空間的・形態的システムを、できればストラクチャーの仕組みも兼ねて模索することになりました。

 上記のような条件がプロジェクトの構想段階で明確になった時点で、多孔質で裏表のないストラクチャーをイメージし、階高3.75m、柱ピッチ3.35mで構成される耐震壁と開口部が市松パターンに配された架構体で建物全体をカバーする方針を決定しました。外周フレームは柱梁ともに400mm角断面で、この規模のRC造としては極小サイズですが、想定を超えた地震力が加わった場合でも層崩壊しない構造体を目指すというハイスペックな要求水準を満たすために、市松パターンのストラクチャーの内側に見付幅を揃えたもう一つの架構フレームを、柱では50mm、梁では250mmの絶縁幅を確保して沿わせています。

 プランニングとしては、将来的にさまざまなジャンルの研究実験に対応できることが大学サイドの当初目標に掲げられていましたから、約350uの大部屋形式のオープンラボ二つと約200uの共用部で基準階を構成することが決まり、それらの配列パターンと敷地形状との適合を繰り返し検討した結果、約17m×20mの長方形のオープンラボをL字型に配置し、それら二つの結節部に共用スペースを設置する平面形を採用しました。約350uのオープンラボスペースは、2本の独立柱のみで支持されたピッチ3.35mの格子梁(幅400mm,梁せい900mm)で覆われ、フレキシブルな実験室の性能を満たしています。

 建物へのアクセスは、西門前の階段を登った位置に主要エントランスを設けていますが、1号館の玄関から芝生広場上に延長予定の舗道と直結したエントランスも設置され、この建物自体が西門から1号館までの通り抜け可能な屋内通路の役割も担っています。また、西南側に設けられたこの建物の駐車スペース(5台分)から建物下部を潜り、3号館と緑が丘講義棟(M011)前の新たにガラスキャノピーが架けられた屋外通路へと到達するルートも確保されています。この3号館前の屋外通路は、4号館へのアクセス、そして4号館と緑が丘講義棟(M011)との間の受水槽を撤去移動することで再整備された緑小道(緑が丘駅直結の学内アクセス方向へ接続)などの細かな人の流れを集約するもので、緑が丘地区の屋外スペースに活性を添える新たなプロムナードとして機能することが期待されています。

 この建物は建設系以外の他部局の研究棟として計画されたと述べてきましたが、1階に設けられた緑が丘ホール(椅子席で200名収容可能、1号棟前の芝生広場と同レベルに設置)、多目的スペース1(約30名対応の会議室、遠隔講義システム設置予定)、多目的スペース2(約15名対応の会議室)は、私たち建築系も常時使用可能な全学対応スペースです。各種会議、論文発表会、セミナー、講演会、ワークショップ、そしてレセプションやパーティなど、さまざまなプログラムで活発に利用されることが今後期待されています。

 

西側外観(駐車スペース入口から見る)

西面

1階 緑が丘ホール­