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田中享二先生の日本建築学会大賞受賞

宮内博之(平成10年大学院修士修了/国立研究開発法人建築研究所上席研究員)

 田中享二先生が、「建築物の長寿命化に資する建築防水技術の体系化、および建築防水に関わる研究・教育・産業領域への社会貢献」の長年の功績により、2022年日本建築学会大賞を受賞されました。建築防水分野からの大賞受賞は初であり、一世紀を超える建築防水の歴史に残る偉業を成し遂げ、僭越ながら弟子の一人として栄誉なことであります。

 田中先生は、1971年に北海道大学修士課程修了後、同年東京工業大学助手として着任し、1981年に東京工業大学にて工学博士を取得後、東京工業大学助教授、教授を経て、現在は名誉教授として建築防水分野を中心にご活躍されています。40年以上にわたり田中先生は東京工業大学において、建築の材料・施工分野において、日本建築学会を基盤としての研究・技術開発を推進し建築防水業界を主導し、国内外における防水技術の発展のために精力的に取り組んでいます。

 ここで、田中先生の功績について大きく四つに分けて紹介いたします。

 第一の功績は「建築防水からの建築物の長寿命化への貢献」が挙げられます。例えば、建築物の長寿命化を図るうえで、屋根・外壁等の外皮に利用される防水材料は、水の遮断と躯体保護の観点から耐久性向上が必要不可欠と判断され、建築物全体、建築部位、そして防水材との相互的な関わり合いを総合的に勘案し、メンブレン防水とシーリング防水技術における一連の研究を横断的に実施・体系化されました。その起点は田中先生の博士論文「合成高分子防水層の耐候性」(1981年授与)から始まり、1996年に「合成高分子防水材料および防水層の耐候性に関する研究」で日本建築学会賞(論文)を受賞し、現在は100年防水を目標として居住者の立場から積極的に研究を進めています。

 第二の功績は「建築防水と建築材料・構法分野における横断的研究の展開」が挙げられます。例えば、伝統的な茅葺き屋根の防雨メカニズムの研究や防水材の屋外暴露・促進試験に関する基礎的な研究から、屋上緑化などへの対応、国際化を見据えた外壁目地のシーリング研究、コンクリート下地と防水層との関係を考慮した透水・透気性に関わる細孔構造の研究、地下構造物・躯体の防水に関わる研究、台風時のメンブレン防水の耐風性評価等、原理や適用状態などの多角的視点から研究を展開してきました。これらの成果は日本建築学会の論文集、技術報告集、大会学術講演梗概集、支部研究報告集だけでなく、海外論文から各団体の講演発表に至るまで広く公表されています。

 第三の功績は「日本の建築防水への国際化に貢献」が挙げられます。海外において日本の防水技術を世界に情報発信するために、屋根防水に関わるCIB/RILEM国際会議、シーリング材の国際会議等、防水分野における日本と世界との架け橋の役割を担い国際化にも尽力されました。特に顕著な業績として、2009年に日中韓防水シンポジウムの初代実行委員長として企画・実行し、3カ国間の研究・技術の交流を図りながら、グローバル的な視点で若手の人材育成にも積極的に関わってきました。また留学生を多く受け入れ,田中研で学んだ卒業生達は世界各地で活躍しています。

 第四の功績は「建築防水における研究・教育・産業への貢献」が挙げられます。日本建築学会における様々な防水関連技術研究の委員会主査を担当し、2001年に日本建築学会第1回防水シンポジウムを主導し、防水業界においても技術開発や品質確保のマインド形成と普及に努めてきました。例えば、『建築工事標準仕様書・同解説 JASS8 防水工事』等の指針類や建築工事監理指針・建築改修工事監理指針の改正、そして専門技術者から学生向けに至る防水技術の書籍の執筆など中心的な役割として先導されました。そして、日本建築学会・材料施工委員会委員長および防水工事運営委員会主査だけでなく、東京地方裁判所専門委員・民事調停委員、建築工事監理指針改訂委員会委員長などを歴任しました。また大学教育においては東京工業大学を中心に長きにわたり教育に尽力し、材料・施工分野に関わる建築材料学の著書を著すなど、我が国における建築材料学の普及と建築防水工学の確立に大きく貢献し、その門下生も多数輩出しております。

 以上のように、田中先生は防水分野において新しい融合研究領域を創出し、先駆的な多くの研究成果を基に建築防水技術の体系化を図り、研究・教育・産業領域において横断的に社会貢献され、今回の日本建築学会大賞の受賞に至りました。

 現在、田中先生は(一社)日本防水材料協会に拠点を置き、これまでの環境と変わることなく精力的に防水に関わる研究を進めており、防水業界を牽引されております。田中先生は、恩師である故・小池夫 東京工業大学名誉教授が言われていた「大学の研究は、真っ暗な暗闇に一点の孔をあけることである。」という教えを私たち弟子に自ら体現しているかのように思えます。そのような田中先生の果敢に挑戦する姿に心から尊敬しております。

 田中享二先生へ・・・日本建築学会大賞の受賞、心からお祝い申し上げます。

助手になりたての頃
(大岡山にあった工業材料研究所屋上にて)