会員便り
同期会便り

 会員便り            

黒正清治先生のご逝去を悼む

林 静雄(昭和46年卒/東京工業大学名誉教授)

テキスト ボックス: 撮影  笠松雅弘 本学名誉教授黒正清治先生が、2021年10月28日にお亡くなりになられました。奥様とご家族に見守られて、穏やかに旅立たれたとのことです。享年94歳でした。ここに謹んで心より哀悼の意を表します。

  黒正先生は、1927年東京都にお生まれになり、1951年東京大学工学部建築学科を卒業され、1955年に建設省建築研究所研究員になられました。1964年本学工学部建築学科助教授として着任、1972年教授に昇任されました。1981年工業材料研究所に移られ、所長として研究所の大部門化や本学では初の寄付講座を開設するなど研究環境の改善に努められました。教務部副部長、教務部長として、大学入試の改善や教育環境の向上にも力を尽くされ、評議員としても大学運営に貢献をされておられます。1988年停年により退官し名誉教授の称号を授与されました。

 1988年東京職業訓練短期大学校校長になられ、社会人の教育と育成、教官の研究環境の改善に力を注がれました。1991年に福井工業大学教授、1993年には足利工業大学教授になられました。1994年に同大学の理事、学長に就任され、大学院博士課程の設立に寄与されました。社会的にも、日本建築学会の評議員、理事、日本コンクリート工学協会の理事、(財)マエタテクノロジーリサーチファンドの理事、建設省建築審査会委員などを歴任し、社会の啓蒙活動を行うとともに設計実務の指導にも努められ、大学のみならず、広く建築学の後進たちに影響を与え、多数の優れた研究者や教育者、技術者を輩出されてこられました。

 黒正先生の研究は、主として鉄筋コンクリート造建物の耐震性向上に関する分野であり、耐震要素のせん断破壊のメカニズム、既存建物の耐震診断と補強設計、さらには高強度コンクリート、高強度せん断補強筋、炭素繊維などの新材料の開発に取り組み、鉄筋コンクリート造建物の合理的な耐震設計法の確立に貢献し、日本建築学会から、1975年に論文賞を、2009年に業績賞を受賞され、2010年には名誉会員に推挙されておられます。

 先生が着任された1964年以降、鉄筋コンクリート造建物に大きな被害をもたらした地震が数多く発生しましたが、黒正先生は、それらほとんどの被害調査に携われています。私は1974年伊豆半島沖地震以降の地震被害調査に同行し、貴重な体験をさせていただきました。地震被害調査は建物の耐震化にとって重要で、我々研究者には必要不可欠ですが、被災地の方々には多大な迷惑をおかけしますので、調査のためには周到な準備と被災地での配慮が必要です。黒正先生には地震被害調査のための心構えと調査のイロハを教えていただき、特に心構えについて深くご指導を賜りました。

 黒正先生は、教育と研究、大学運営に全力を尽くされ、趣味はお酒とカラオケと言って良いでしょう。下戸の私を相手でも、研究室で飲み始め、自由が丘、銀座へと、お酒と十八番の美空ひばりで楽しまれておられました。深夜、私は先生を中目黒のご自宅までタクシーでお送りし、研究室に泊まることになります。晩年、体調を崩されてからは控えておられたようですが、黒正先生、天国では心置きなく楽しまれ、安らかにお過ごしください。ご冥福をお祈りいたします。