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茶谷正洋先生を悼む

大野 隆造(昭和47年卒/東京工業大学 教授)

 茶谷正洋先生は2008年11月19日に永眠されました。先生は東京工業大学を卒業された後、1956年から大成建設、1961年から建設省建築研究所を経て、1967年から本学建築学科助教授、1979年教授を歴任され、1995年退官後も法政大学等において教鞭を取られました。

 先生は、子どものような強い好奇心や人を驚かす大胆な着想と行動から、諸先輩に「チャタボー」という愛称で呼ばれていました。建築研究所時代にカナダ出張からの帰国命令を無視して1年後に世界を一周して反対方向から帰国したことや、ワシントン大学で客員助教授として教えた後に南米からオセアニアの環太平洋諸国を転々と渡り歩いた冒険旅行など、その奔放な行動を示すエピソードに事欠きません。しかしこの一見無謀な行動も実は緻密な計画と訪問先での徹底した調査であったことが、残された膨大なノートやスケッチから知ることができます。このユニークで無邪気な着想とディテールをおろそかにしない知識と技が、後に「折り紙建築」として結実したように思います。

 かつて東工大の記念誌に「恩師を語る」ページを与えられ、その冒頭で「茶谷先生に直接何か教わった記憶がない」と書き「先生の側にも知識を教え込もうとした気配もなかった」と記しました。しかし、茶谷研究室に身を置き、国内外の調査に同行して、先生の自由奔放な発想と寝食を忘れる驚異的な集中力、そしてそれを意味のある成果とするための緻密で周到な準備をされる姿を傍らで目の当たりにして、茶谷先生の流儀の一部でも身に付けることができたのではないかと思います。本年4月4日の「お別れの会」では、茶谷研の自由な空気を吸って育ったOB達の確かな成長ぶりを天国から先生がご覧になり、茶谷流教育の成果に目を細められたことと思います。この会の展示のために収集・整理された多方面にわたる膨大な業績(その一部はTIT建築設計教育研究会発行の「華『ka』2009年年間号」の巻頭記事として掲載)を見渡して、先生の多才ぶりに改めて感服するとともに、先生の死によって失われてしまった知と技と感性の大きさを感じないではいられません。私は教師としてその一部でも次世代に引き継ぐことができればと思います。先生のご冥福を心よりお祈りいたします。