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受章 瑞宝中綬章
小林啓美先生の瑞宝中綬章を祝う

瀬尾 和大(昭和42年卒/本学人間環境システム専攻教授)(2004.3)

小林啓美先生がこのたび栄誉ある瑞宝中綬章の叙勲をお受けになりましたこと,誠におめでとうございます.この機会に改めまして先生のご業績の一端をご紹介させて頂きつつ,この喜びを冬夏会会員各位と分かち合いたく存じます.

 先生は,昭和22年に東京工業大学建築学科をご卒業になり,直ちに谷口忠教授の助手を務められ,昭和32年には助教授,昭和40年には教授に就任されました.その後,大学院独立研究科創設準備委員会委員長,総合情報処理センター長,教務部長,大学院総合理工学研究科長,評議員など本学の要職を歴任されながら,昭和61年にご退官を迎えられ本学名誉教授の称号を授与されました.そして大学入試センター副所長を約3年間お務めになり,さらに平成元年からは日本工業大学教授として工学部建築学科に勤務され平成7年に定年退職されましたが,その後も,国や地方自治体の数々の重要な委員会をお引き受けになる一方で,現役の工学地震学者として研究活動をお続けになり,現在に至っておられます.

 先生のご研究の発端は,学部時代の南海地震1946と助手になられてすぐの福井地震1948における現地調査であったと伺っています.先生自ら「当時地震工学は研究者にとって泥沼だと言われていたが、卒業して迷わずその泥沼に足をいれてとうとう今日に至っている」と顧みておられますように,建築耐震学の基礎を築かれた当時のご苦心は並大抵ではなかったと推察されます.その成果は「建築物に作用する震力に関する研究」に結実され,昭和36年本学から工学博士の学位を授与され,翌年には建築学会論文賞を受賞されております.

 その後も,いち早く電算機を導入され地震応答解析の実務を可能にされたこと,強震記録の重要性を痛切にお感じになりその観測と記録の普及に尽力されたこと,構造物の地震応答には地動加速度よりも地動速度の方が肝要であることをお示しになったこと,地盤の増幅特性を重視され,SH波重複反射を導入される一方で常時微動を用いた現地調査を普及されたこと,爆破地震学を工学に導入され地震基盤の概念を確立されたこと,経験的手法により地震動特性を震源特性・距離減衰・地盤増幅特性に分離され,移動震源を考慮した地震動予測手法を確立されたこと,サイスミック・マイクロゾネーションの概念をいち早く導入し普及されたこと,等々枚挙に暇なく,ここに逐一ご紹介することは到底不可能なほどです.考えてみますと,先生はその時代毎に何が最も重要で何が不足しているのかを誰よりも的確に掴んでおられたのではないかと思い当たります.そしてその背景には,国の内外を問わず数多くの地震被災地を実地調査され,国連やUNESCOの顧問として地域に固有の問題を我がこととして技術指導されてきた現場主義を感じないわけには参りません.

 この間50有余年,先生は建築耐震学から地震学に至る広領域をくまなく連結する主導者としてご活躍になり,建築学・地震工学・工学地震学・地震学等の学界に留まらず,中央防災会議・科学技術庁・文部省・建設省・通産省・地方自治体の耐震問題・地震防災施策において強力な指導力を発揮してこられたことは誰しもが認めるところです.

 先生の益々のご健勝をお祈りいたしますと共に,今後とも後進への叱咤激励をお願い申し上げます.